語学や国際知識を活かせて独占業務なので需要が高い「通関士」

通関士とは

通関士は、日本で唯一「輸出入に関する通関手続きを代行できる」国家資格を持つ専門職です。輸出入を行う企業は、貨物を海外とやり取りする際に関税や輸入規制、各種法令に基づいた手続きを正確に行う必要がありますが、これらは非常に複雑で専門知識を要します。そこで通関士は、貿易実務に関する法律や関税制度、品目分類(HSコード)、輸出入申告書の作成、税関への申告・対応などを担います。輸送業者や商社、メーカーと税関の橋渡し役を務め、円滑で適法な国際物流を支える存在です。

資格試験は年1回実施され、科目は「通関業法」「関税法及びその他関税関係法令」「通関実務」で、合格率は10%前後と難関です。

合格すると、通関業者(フォワーダー、物流会社)で活躍でき、グローバルなビジネスの現場で不可欠な人材として評価されます。

通関士は法律知識と実務能力の両方が求められるため専門性が高く、景気の影響を受けにくい安定した職種といえます。

特に貿易が盛んな日本において、通関士は国際物流を支える重要な国家資格保持者と位置付けられています。

通関士の仕事内容

通関書類の作成・申告
・輸出入申告書、許可申請書などの作成
・品目の関税分類(HSコード付与)や関税額の計算

税関とのやり取り
・輸出入貨物の内容について税関に申告し、審査や検査に対応
・税関からの問い合わせや書類補正に対応

関税・消費税の納付手続き
・輸入品にかかる関税や消費税の計算・納付
・法令違反を防ぐためのチェック

輸出入関連法規の確認と遵守
・関税法、外為法、食品衛生法、植物防疫法など、関連する法律を確認し、輸出入の可否を判断

取引先や社内との調整
・商社やメーカーなどの依頼主と連携し、必要書類や貨物内容を確認
・輸送業者やフォワーダーと連絡を取り、スムーズな物流を実現

通関士の1日の仕事の流れ(例)

8:30 出社・メール確認
輸出入案件に関する依頼や通関関連の連絡をチェック。必要書類の有無を確認。

9:00 書類の確認・申告準備
インボイス、パッキングリスト、船荷証券(B/L)などの書類を確認。品目の分類(HSコード付与)や関税計算を行う。

10:00 税関への申告
NACCS(通関情報処理システム)を使って輸出入申告。税関からの照会があれば回答や修正を行う。

12:00 昼休憩

13:00 検査対応
税関が指定した貨物について、現場での検査立ち合いや検査報告を行う。輸入の場合は植物検疫・動物検疫も関わることがある。

15:00 許可取得・関係者への連絡
税関から許可が出たら、依頼主や運送会社に連絡。輸送手配や倉庫搬入の調整を行う。

16:00 書類整理・納付手続き
関税・消費税の納付処理、書類の整理やシステム入力。ミスがないよう慎重に進める。

17:30~18:00 退社
翌日の案件を確認し、必要な準備を整えて業務終了。

通関士の主な勤務先

1. 通関業者(フォワーダー)

  • 輸出入貨物を取り扱う専門業者。
  • 船会社や航空会社と荷主の間に立ち、通関業務を代行。
  • 通関士のメインの活躍の場。

2. 商社

  • 総合商社・専門商社では自社で輸出入業務を行うため、通関知識を持つ人材が重宝される。
  • 特に貿易実務部門で活躍。

3. 船会社・航空会社・物流会社

  • 輸送部門に所属し、通関や輸送の調整を担当。
  • 国際物流全般に関わることができる。

4. 倉庫会社

  • 貨物の保管と通関を兼ねるケースが多い。
  • 税関の保税倉庫で貨物管理に従事。

5. 製造業(メーカー)

  • 自社製品を輸出したり、原材料を輸入するため通関知識を持つ人材が必要。
  • 食品・医薬品・自動車など国際取引が盛んな業種で活躍。

6. 税関・官公庁関連(間接的)

  • 通関士資格自体は民間資格だが、税関と密接に関わるため、公的機関と連携する機会が多い。

通関士のやりがい・魅力

1. 貿易の専門家として活躍できる
通関士は法律で認められた唯一の「通関の国家資格保持者」です。輸出入手続きは国際条約や関税法に基づく高度な知識が必要で、責任の重い業務を任されることで専門職としての誇りを持てます。

2. 世界とつながる仕事
輸出入貨物を扱うため、日々の仕事がそのまま国際ビジネスの一部になります。自分が担当した手続きが無事に通り、海外へ製品が出荷されたり、輸入品が国内に届いたときには大きな達成感を得られます。

3. 語学や国際知識を活かせる
外国企業や海外の規制情報に触れる機会が多く、語学力や国際感覚を活かしたり磨いたりできる点は国際派志向の人にとって魅力です。

4. 社会インフラを支える使命感
通関士の仕事が滞ると物資の流通に支障が出ることもあります。医薬品や食料など生活必需品の流通を支えている責任感は大きなやりがいにつながります。

5. キャリアの安定性
通関業務は法律で定められた「独占業務」があるため、資格を持つ人材は常に需要が高く、安定して働けるという安心感もやりがいの一つです。

通関士の平均年収の目安

情報源によって多少の差はありますが、通関士の全国平均年収は400万円台前半から500万円台後半に位置しています。

  • 約550万円~580万円程度(厚生労働省の賃金構造基本統計調査やJob Tagなどのデータに基づく)
  • 約415万円程度(求人情報サイトの求人統計データに基づく)

このように幅があるのは、統計の取り方(全年齢・全企業規模の平均、求人情報のみの平均など)が異なるためです。一般的には、専門性の高い国家資格であることから、日本の給与所得者全体の平均年収(約460万円前後)よりは高い水準と見なされています。

年収に影響を与える主な要因

通関士の年収は、以下のような要因によって大きく変動します。

要因傾向備考
経験・勤続年数年齢や経験を積むにつれて上昇する傾向があります。40代前半をピークに年収が上がるデータが多く見られます。20代後半で400万円台、40代で600万円台を超えるケースもあります。
勤務先の種類企業の種類や規模によって差が出ます。大手企業外資系企業専門性の高い国際物流企業(フォワーダー)などは、一般的な通関業者よりも高めの年収が期待できます。
勤務地都市部(特に東京)は平均年収が高い傾向があります。地域差があり、地方に比べて都市部の年収が高くなる傾向があります。
資格手当多くの企業で支給されています。月額3,000円~15,000円程度など、企業によって金額は異なりますが、年収アップにつながる要素です。
役職・ポジション管理職やチームリーダーなど、責任あるポジションに就くことで大幅に年収がアップします。

通関士になって高年収(年収1,000万円)は可能か?

通関士の平均年収が500万円台であっても、年収1,000万円以上を目指すことは可能です。

  • 大手総合商社、外資系企業の貿易部門で、通関士としての知識を活かしてマネジメントやコンサルティング業務に携わる。
  • 国際的なキャリアを積み、海外拠点で活躍する。
  • 通関士資格を活かしつつ、貿易に関する高度な知識(法律、税務など)を組み合わせた専門家として企業で重要な役割を担う。

まとめ

通関士は、資格自体が独立開業に直結しにくい(通関業を開業するには条件がある)ため、弁護士や公認会計士のような士業に比べて平均年収が低い傾向はありますが、貿易・物流業界における専門職として安定した需要と、平均以上の収入を得られる国家資格であると言えます。